感染性腸炎とは
感染性腸炎とは、ウイルス、細菌、寄生虫などの病原体が腸に感染し、炎症を引き起こす疾患の総称です。一般的には「お腹の風邪」や「食中毒」と呼ばれることもありますが、医学的にはその原因によって治療方針や社会的対応(二次感染防止)が大きく異なります。
主な症状は腹痛、下痢、吐き気・嘔吐、発熱ですが、病原体の毒素の強さによって症状の現れ方は多岐にわたります。
原因病原体の分類と特徴
感染性腸炎を引き起こす病原体は、大きく「ウイルス性」と「細菌性」に分けられます。
① ウイルス性腸炎(冬季に多い)
- ノロウイルス: 非常に強い感染力を持ち、カキなどの二枚貝や接触感染で広がります。激しい嘔吐と下痢が特徴です。
- ロタウイルス: 乳幼児に多く見られますが、成人も感染します。白色に近い水様便が出ることがあります。
② 細菌性腸炎(夏季に多い)
- カンピロバクター: 加熱不十分な鶏肉などから感染します。数日の潜伏期間後、激しい腹痛と高熱を伴うのが特徴です。
- サルモネラ: 鶏卵やペット(カメなど)から感染することがあります。
- 病原性大腸菌(O-157など): 激しい腹痛と血便を呈します。ベロ毒素による重篤な合併症のリスクがあります。
当院における診断
高齢者や持病のある方、激しい症状がある方の場合は、速やかな病原体の推定と合併症の評価が必要です。
迅速検査・糞便培養検査
ノロウイルスなどの迅速検査(数十分で判定)や、細菌を特定するための培養検査、薬剤感受性試験(どの抗菌薬が効くか)を的確に行います。
腹部超音波(エコー)検査
腸管の腫れや腹水の有無、虫垂炎(もうちょう)など他疾患との鑑別をリアルタイムで行います。放射線被曝のない安全な検査です。
血液検査による脱水評価
炎症反応(CRP)に加え、電解質バランスや腎機能を測定し、点滴治療や入院加療の必要性を科学的に判断します。
治療について(安易な下痢止めに注意)
感染性腸炎の治療において、最も注意すべきなのは「安易に下痢止め(止瀉薬)を服用しない」ということです。
下痢は、体内の毒素を排出しようとする生体防御反応です。下痢止めで無理に止めると、毒素が長時間腸内にとどまり、病状の悪化や重篤な合併症を招く恐れがあります。
- 水分・電解質管理: 最も重要な治療です。経口補水液や点滴で水分と塩分を補給します。
- 整腸剤の使用: 腸内細菌叢を整える乳酸菌製剤などは安全に使用可能です。
- 抗菌薬(抗生物質): 細菌性が強く疑われる重症例に対し、適切な種類を選択して投与します。
二次感染の防止と社会復帰
周囲への感染拡大を防ぐため、以下の対策が基本となります。
- 手洗いの徹底: ウイルスには石鹸と流水による十分な手洗いが最も有効です。
- 次亜塩素酸による消毒: 嘔吐物の処理などは、家庭用漂白剤を希釈したもので行う必要があります。
- 登校・出勤停止: 症状が改善しても便中に菌が排出されるため、特に食品を扱う職業の方は注意が必要です。





