機能性ディスペプシア(FD:functional dyspepsia)

機能性ディスペプシア(FD:functional dyspepsia)
ってどんな病気?

機能性ディスペプシア機能性ディスペプシア(FD)は、胃痛(心窩部痛)、胃もたれ、食欲不振、嘔気・嘔吐など、さまざまな胃の不快な症状があるにもかかわらず、CT検査や胃内視鏡検査(胃カメラ検査)などの色々な検査をしても、胃潰瘍や胃がんなどの症状の原因となる器質的疾患、全身性疾患、代謝性疾患などの異常は何も見つからない病気です。機能性ディスペプシアは、胃の不調な症状を引き起こす機能性疾患の一種と考えられています。
病名である「ディスペプシア」は、ギリシャ語のdys pepsia(英語ではbad digestion)が語源であり、「消化不良」を意味しています。症状の原因となる病気がないにもかかわらず、胃の機能の問題で消化不良が起こりやすくなり、さまざまな胃の不調な症状が出現する病気というところから、機能性ディスペプシアという病名が名付けられています。
このような胃の不調は、症状の継続によって食事量が減少し、体重が減ったり、仕事や勉強に集中できなくなったり、体力が低下する原因となります。機能性ディスペプシアは、命に直接的に影響する病気ではありませんが、日常生活の質を大幅に低下させるつらい病気です。特に若い女性に多く見られ、日本人の5人に1人が機能性ディスペプシアの症状で悩んでいるという報告もあり、多くの日本人を悩ませている病気の一つです。

機能性ディスペプシア(FD)の
主な症状

機能性ディスペプシアでは、次のようなさまざまな胃の不快感や症状が現れます。

など

腹痛これらの症状がある場合は、機能性ディスペプシアの可能性がありますが、それ以外にも食道がん、胃がん、胃潰瘍、ヘリコバクター・ピロリ菌感染、逆流性食道炎、好酸球性食道炎などの治療が必要な病気が症状の原因となっている場合もあります。これらの症状がある場合は、絶対に放置せずに必ず消化器内科を受診しましょう。

上記の症状に加えて、以下の項目に該当する場合は、機能性ディスペプシアではなく、食道がんや胃がん、ヘリコバクター・ピロリ菌感染などが症状の原因である可能性が高くなります。絶対に放置せずに早めに消化器内科を受診しましょう。

  • 貧血がある
  • 黒色便(タール便、墨のような黒い便)がある
  • 減量していないのに体重が減少している
  • 飲酒や喫煙をしている
  • お酒を飲むとすぐに顔が真っ赤になる体質である(フラッシャー)
  • ヘリコバクター・ピロリ菌感染や胃がん、食道がんなどの既往歴や家族歴がある
  • 40歳以上である

症状の感じ方には個人差があります。上記はあくまでも症状の一例です。この病気の症状はこれしかないということはありません。
診察時にご自身が感じている症状をそのまま伝えて頂くのが最も大切です。「どういう時に症状が出やすいか」「症状を軽減または悪化させるものがあるか(姿勢、食事、行動、朝・昼・夜の時間帯など)」も併せてお伝えください。

機能性ディスペプシア(FD)の
自己診断チェックリスト

胃痛、胃もたれ、腹部膨満感、嘔気・嘔吐、食欲不振、早期膨満感など、胃やおなかのつらい症状がある場合は、機能性ディスペプシアかもしれません。
このような場合は、以下の自己診断チェックリストで一度チェックしてみましょう。

このチェックリストは、現在国際的に最も一般的に使用されている機能性ディスペプシアの診断基準(RomeⅣ診断基準)を参考にしています。下記の4つの症状のうち、いずれか一つでも該当する場合は、機能性ディスペプシアの可能性があります。
ただし、このチェックリストだけで機能性ディスペプシアと確定診断されるわけではありません。また、食道がんや胃がん、胃潰瘍、ヘリコバクター・ピロリ菌感染、逆流性食道炎、好酸球性食道炎など疾患の可能性を否定するものではありません。確定診断のためには、胃カメラ検査やヘリコバクター・ピロリ菌感染の検査などを受けて、他の疾患が症状の原因でないことを確認する必要があります。
該当する症状がある場合は、ぜひ一度、当クリニックにご相談ください。

機能性ディスペプシアのRomeⅣ診断基準(一部改変)

RomeⅣ診断基準では、機能性ディスペプシアをその症状に基づいて、つらい心窩部の症状を訴える心窩部痛症候群(EPS:epigastric pain syndrome)と食後につらい胃の症状が出現する食後愁訴症候群(PDS:postprandial distress syndrome)の2つに分類しています。これらのいずれかの症状を満たすと、機能性ディスペプシアと診断されます。心窩部痛症候群(EPS)と食後愁訴症候群(PDS)の症状は、重複する場合もあります。

以下はRomeⅣ診断基準に基づく症状です。

心窩部痛症候群(EPS)と診断

少なくとも週に1日以上、次の症状のいずれか一つまたは両方を満たす場合を、心窩部痛症候群(EPS)と診断します。

  1. つらいと感じる心窩部痛(胃痛、みぞおちの痛み)がある
  2. つらいと感じる心窩部灼熱感(胃の焼けるような感じ、みぞおちの焼けるような感じ)がある
食後愁訴症候群(PDS)と診断

少なくとも週に3日以上、次の症状のいずれか一つまたは両方を満たす場合を、食後愁訴症候群(PDS)と診断します。

  1. つらいと感じる食後のもたれ感がある
  2. つらいと感じる早期満腹感(すぐお腹が一杯になる)がある

※機能性ディスペプシアのRomeⅣ診断基準では、上記の症状に加えて、診断基準の大前提として病脳期間(症状で悩んでいる期間)を「6か月以上前にチェックリストに該当する症状が出現し、この3か月間症状が継続していること」と定義しています。しかし、日本消化器病学会による機能性ディスペプシアの診療ガイドライン2021改定第2版では、日本人においてはこの病脳期間の前提は当てはまらないとしており、自覚症状や胃カメラ検査などの検査結果から総合的に診断することを提唱しています。
諸外国と異なり、日本では医療機関の受診制限がないため、ほとんどの患者さんが、これらのつらい症状が出現した時点で受診されるケースが多く、日本においてはこの病脳期間は当てはまらないとされています。

機能性ディスペプシアの
原因について

診察機能性ディスペプシアは、ストレスをはじめとする自律神経の乱れが原因で起こると考えられていますが、実際のところは、現在の医学では明確に解明されていません。胃の運動機能異常や内臓知覚過敏、心理社会的因子、遺伝的要因、生育環境、運動不足、睡眠不足、食事内容や食習慣などの生活習慣の乱れなど、複数の要因が複合的に関与している可能性が考えられています。また、感染性胃腸炎を経験した後も機能性ディスペプシアが発症しやすいと考えられています。
近年、ヘリコバクター・ピロリ菌感染により機能性ディスペプシアと似た症状が出現することがあると報告されています。ピロリ菌の除菌治療後に半年から1年が経過し、症状が消失または改善するものは、機能性ディスペプシアではなく、H.pylori関連ディスペプシア(Helicobacter pylori-associated dyspepsia:
HpD)という別の病態として分けて考えられています。

① 胃の運動機能異常

機能性ディスペプシアの2つの病型のうち、特に食後愁訴症候群(PDS)の原因と考えられる異常です。
胃の運動機能異常には、1)胃の膨らみ障害と、2)胃からの食物の排泄遅延の2つの要因が関与していると考えられています。通常、食事が胃内に入ると、胃の天井部分である穹窿部(きゅうりゅうぶ)が膨らんで食事を一時的に蓄えます。その後、食事は胃液によって粥状に消化されながら胃の出口部分である前庭部(ぜんていぶ)まで運ばれます。最後に、前庭部が収縮して消化された食事を十二指腸へと排出します。しかし、機能性ディスペプシアの患者さんの約40~50%では、胃の膨らみ障害が発生し、食事を胃内に一時的に蓄えることが出来ません。このため、少量の食事で早期に膨満感が生じ、吐き気や嘔吐を引き起こしやすくなります。また、機能性ディスペプシアの患者さんの約20~40%では、胃からの食物の排泄遅延も起こります。これにより、食物が胃内に長く滞留するため、胃もたれ、食後の膨満感、嘔気などの症状が現れます。
さらに胃で十分に消化されなかった食事が十二指腸に排出され、十二指腸が急に膨らむと反射的に胃の運動がまずます低下します。十二指腸で処理できなかった食事は、胃に逆流し食事の排泄の更なる停滞を引き起こすため、さらに消化不良と胃もたれが生じるという悪循環にもつながります。

② 胃の内臓知覚過敏

機能性ディスペプシアの2つの病型のうち、特に心窩部痛症候群(EPS)の原因と考えられる異常です。
胃は本来、胃酸を分泌する臓器であり、通常は胃酸の分泌によって刺激を感じることはありません。しかし、機能性ディスペプシアでは、胃の運動機能異常により食物の胃からの排泄遅延が起こり、食物が胃内に長時間滞留します。この影響により、胃壁は持続的に伸展刺激を受け、さらに食物による化学的な刺激にも長時間暴露されることになります。さらに、胃の膨らみ障害による胃の内圧上昇や胃壁の過剰伸展が加わると、胃が内臓知覚過敏を引き起こすと考えられています。胃の内臓知覚過敏により、わずかな刺激でも胃痛や胃部不快感が引き起こされやすくなるだけでなく、少量の食事が摂取されただけでも早期に満腹感を感じやすくなると考えられています。

③ 心理社会的因子(ストレス、不安、生育環境など)

胃腸は第2の脳と言われるほど、脳に次いで神経細胞が密集しています。また、胃腸の機能は神経を介して脳と密接に関連し、脳腸相関と呼ばれています。胃腸は、幼少時の経験や生活上のストレスなどの環境的・社会的要因と不安や抑うつなどの心理的要因の影響を受けやすいと考えられています。
機能性ディスペプシアと診断された患者さんは、パニック症候群の患者さんと同等の心理社会的ストレスを受けており、強い抑うつ要素や不安要素が報告されています。ストレス、不安、緊張状態などのネガティブな感情が持続すると、副腎皮質から副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)と呼ばれるストレス応答ホルモンの分泌量が増加します。CRHは胃の運動を鈍らせ、知覚反応を増強させる(知覚過敏を引き起こす)ため、胃痛、胃もたれ、早期膨満感、嘔気などの症状が現れると考えられています。
さらにストレスは、胃酸分泌量を増加させる作用があるため、知覚過敏が起こった胃では胃痛などの症状がさらに生じやすくなると考えられています。

④ 運動不足・睡眠不足・食事内容や食習慣などの生活習慣の乱れ

機能性ディスペプシアの患者さんは、健康な人と比較して有意に運動不足があり、難治性の機能性ディスペプシアの患者さんは非難治性機能性ディスペプシアの患者さんと比較してさらに運動不足があると報告されています。また、機能性ディスペプシアの患者さんでは、夜間の頻繁な目覚めや浅い睡眠などの睡眠障害が多く見られ、これらが症状の発現に関連していると考えられています。不規則な食事パターンや早食い、高脂肪食をよく食べるなどの食習慣の乱れも機能性ディスペプシアの症状を引き起こしやすいと報告されています。

⑤ 感染性腸炎の治癒後

ウイルスや細菌による感染性胃腸炎を経験した後も機能性ディスペプシアが発症しやすいと考えられています。

機能性ディスペプシアの検査

機能性ディスペプシアの診断は、症状が診断基準を満たしていても、それだけでは確定診断にはなりません。
機能性ディスペプシアは、さまざまな胃の不快な症状があるにもかかわらず、胃自体には何も異常がない病気です。このため、検査を行い、他の病気が症状の原因ではないことを証明して、はじめて機能性ディスペプシアと診断されます。
機能性ディスペプシアの診断については、以下のリンクをご参照下さい。


ときどき、年齢や症状だけで機能性ディスペプシアと診断され、内服治療を受けている患者さんがいますが、消化器内科の専門医としては他の病気の可能性を排除し、しっかりと診断をつけてから治療を開始することを強くおすすめします。
機能性ディスペプシアの診断のためには、以下の検査を行います。

腹部超音波検査(腹部エコー検査)

胃の不調は、みぞおちの辺り(心窩部、上腹部)の症状として現れることがありますが、胃だけでなく、肝臓、胆のう、すい臓もこの領域に位置しており、症状の原因となる異常が存在する可能性があります。「みぞおちの辺り(心窩部、上腹部)の症状=胃の病気」と断定するのではなく、肝臓、胆のう、すい臓に症状の原因となる異常がないかを調べることが重要です。これらの臓器は、腹部超音波検査(腹部エコー検査)で調べることが可能です。エコー検査で病気が疑われた場合は、CT検査などの追加検査を検討します。

胃内視鏡検査(胃カメラ検査)

大腸内視鏡検査胃内視鏡検査(胃カメラ検査)では、食道、胃、十二指腸内の粘膜や動いている様子を直接観察し、以下の情報を得ることが可能です。この検査の主な目的は、症状の原因となる食道、胃、十二指腸の病気の有無を評価することです。

  • 食道、胃、十二指腸の粘膜に炎症など、症状の原因となる異常はないか?
  • 胃がんや胃粘膜下腫瘍、胃悪性リンパ腫など、症状の原因となる異常はないか?
  • 過剰な胃酸分泌を疑う異常はないか?
  • 食道、胃、十二指腸の運動に異常はないか?(過剰な収縮や拡張はないか、食道アカラシアなどの否定)
  • ヘリコバクター・ピロリ菌に感染していないか?過去に感染していた痕跡はないか?
  • 胃カメラ検査時に空気を少し入れただけで痛みが生じないか?(胃の知覚過敏が起こっていないか?)

など

胃カメラ検査では、これらの情報から症状の原因となる食道、胃、十二指腸の病気の有無が評価可能です。また、ヘリコバクター・ピロリ菌感染の有無も評価できます。
胃カメラ検査については、以下のリンクをご参照下さい。

機能性ディスペプシアの治療

機能性ディスペプシアは、ストレス、食事や睡眠などの生活習慣の乱れなどの複数の要因が関与し、自律神経の乱れによって胃の運動の悪化や内臓知覚過敏が引き起こされると考えられています。しかし、まだ、根本的な原因は明確には分かっていません。一般的には、ストレスの軽減により症状が改善し、逆にストレスの増加によって症状が悪化することから、ストレスに敏感な体質であることが、自律神経の乱れと症状の発現に関与しているのではないかと考えられています。
機能性ディスペプシアの治療には、ストレスの軽減や生活習慣の改善、食事療法などが行われます。また、薬物療法も併用されますが、残念ながら、全ての患者さんに効果のある治療方法というものは存在しません。どの治療方法が適しているかは個々の患者さんによって異なります。また、症状の改善までにかかる時間も患者さんによって異なります。まずは、この点を理解して頂くことが治療への第一歩となります。

① 食事療法

食事療法胃の運動機能障害による食後愁訴症候群(PDS)の症状に対する中心となる治療は食事療法です。
食べた食事の胃内滞留時間(胃から排泄されるまでの時間)が長くなればなるほど、胃もたれ症状が悪化します。このため、機能性ディスペプシアの症状がある場合は、消化に時間がかかる食事の摂取を控えることが重要です。
各栄養素の胃内滞留時間は、タンパク質、炭水化物、脂肪の順に長くなります。高脂肪の食事である天ぷらやビーフステーキなどは、胃内の滞留時間が長くなるため、胃もたれや吐き気などの症状を引き起こしやすい食事です。症状がある場合には、これらの食事の摂取は控えましょう。

② 生活習慣の改善

運動療法日ごろから十分な睡眠をとり、ウォーキングなどの適度な運動を行いましょう。
アルコールやカフェイン、喫煙、睡眠不足、暴飲暴食などの生活習慣の乱れは、機能性ディスペプシアの原因となります。特に、カフェイン、アルコール、高脂肪な食事は、胃酸の分泌を増加させるため、症状を悪化させます。これらの摂取量には注意しましょう。
また、1日3回朝昼夕の定時で食事をとる習慣を身につけましょう。どんなに忙しくても朝食はしっかりと食べる習慣を身につけましょう。朝は交感神経が緊張しています。このため、胃の動きが悪く、胃の運動能力も低下しています。しかし、朝食をしっかり食べると、交感神経が刺激されて整うため、1日の胃腸のリズムが良くなり、胃腸の運動能力が適切に発揮されるようになります。さらに、胃の働きが良くなると、それに応じて小腸や大腸の働きも活発になります。また、ダイエットは胃腸の機能を低下させ、機能性ディスペプシアの症状を悪化させるため、やめましょう。

③ 症状に対する認識を変える

前向き機能性ディスペプシアでは、まず患者さんに「自分がストレスに敏感な体質であること」、「ストレスに胃が反応しやすい体質であること」、「このために症状が出やすいこと」を認識していただくことが重要です。また、症状が怖い病気によるものでないことを理解していただくことも大切です。機能性ディスペプシアでは、自身の体質を受け入れることも治療の第一歩となります。
機能性ディスペプシアでは、症状が現れた際に「恐ろしい病気が潜んでいるのではないか?」と不安を感じると、それがストレスとなり、症状が一層悪化する悪循環に陥りやすくなります。しかし、症状が出ても慌てずに、「またストレスを感じているのかな?疲れがたまっているのかな?」と客観的に自身を見つめる習慣を持つことで、徐々に胃がストレスに対して敏感に反応しなくなっていきます。機能性ディスペプシアでは、意識を前向きに変えていくことも症状の改善に非常に効果的です。

④ ストレスを具体的にして軽減させる

機能性ディスペプシアは、その症状に基づいて心窩部痛症候群(EPS)と食後愁訴症候群(PDS)の2つに分類されますが、心窩部痛症候群(EPS)も食後愁訴症候群(PDS)もどちらもストレスが原因で症状が悪化します。自分が具体的にどのようなことにストレスを感じているのかを明確にし、そのストレスを軽減させましょう。症状の原因となっているストレスを軽減することで、症状も軽減しやすくなります。ご自身でストレスを軽減させることが難しい場合は、心療内科で認知行動療法や薬物療法(抗不安薬や抗うつ薬など)を受けることで症状の改善が期待できます。

⑤ 薬物療法

薬物療法上記の①~④の改善を行っても症状の改善が得られにくい場合は、薬による治療を行います。
機能性ディスペプシアの症状は、心窩部痛症候群(EPS)による症状と食後愁訴症候群(PDS)による症状の2種類の症状があります。多くの場合は、この2種類の症状はオーバーラップしているため、それぞれに対してアプローチする薬を併用して治療することが一般的です。
薬物療法により胃の機能を向上させ、症状を改善することが期待できますが、薬の胃の機能をサポートする力以上にストレスや生活習慣の乱れがある場合や、自律神経が乱れている場合は、薬を服用しても症状の改善は期待できません。薬物療法はあくまでも治療の中心ではなく、上記①~④の症状に対するアプローチが最も重要です。

●胃酸分泌抑制剤(H2ブロッカー、プロトンポンプ阻害剤、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)

これらの薬は、胃酸の分泌を抑えるための薬です。機能性ディスペプシアの中でも、胃痛や灼熱感、胸やけなどの心窩部痛症候群(EPS)の症状の改善をサポートする薬です。心窩部痛症候群(EPS)では、内臓知覚過敏が症状の原因となり、胃の胃酸に対する感受性が高まっています。胃酸の分泌量が多いほど、その刺激を感じやすく症状が悪化するため、胃酸分泌抑制剤を使用して胃酸の分泌を抑えることで、症状を軽減させます。ただし、心窩部痛症候群(EPS)では、胃酸に対する感受性が異常に高まっているため、少量の胃酸でも症状が現れます。これらの薬は、胃酸を完全に抑える薬ではないため、通常、この薬単独では症状を完全に解消するのは困難です。

●漢方薬(六君子湯)

漢方薬の六君子湯には、ヘスペリジンという成分が含まれています。ヘスペリジンは胃の緩み(適応性弛緩)を促すことで、胃の運動機能を改善させます。このため、胃の運動機能異常が原因で起こる早期膨満感や嘔気などの食後愁訴症候群(PDS)の症状の改善が期待できます。

●消化管運動機能改善薬(アコチアミド)

アコチアミドは、アセチルコリンエステラーゼという酵素の働きを阻害することで、神経伝達物質であるアセチルコリンの作用を増強し、胃の運動機能を向上させる薬です。機能性ディスペプシアでは、胃の天井部分にあたる穹窿部の膨らみ障害により、早期膨満感や嘔気・嘔吐などの症状が出現しますが、アコチアミドは穹窿部を緩めて膨らみやすくすることで、これらの症状を改善させます。また、機能性ディスペプシアでは、胃の出口部分である前庭部の運動機能の低下により、食物の胃からの排出が遅れるため、胃もたれや食後の膨満感、嘔気などの症状が現れることがありますが、アコチアミドは前庭部の運動機能を改善し、これらの症状を緩和させます。

●抗うつ薬、抗不安薬など

非常に強いストレスが原因であることが明確であっても、自分でそのストレスを軽減することが難しい場合には、心療内科で認知行動療法や薬物療法(抗不安薬や抗うつ薬など)を受けることで、症状が改善しやすくなることがあります。

当院の胃カメラ検査の特長

内視鏡室機能性ディスペプシアは、胃カメラ検査で食道、胃、十二指腸に症状の原因となる病気が存在しないことを確認することではじめて確定診断となります。機能性ディスペプシアでみられる症状は、食道がん、胃がん、ピロリ菌感染、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎などのさまざまな上部消化管の病気でもみられる症状です。症状だけでは、これらの病気と機能性ディスペプシアを区別することはできません。
少しでも気になる胃の不調があれば、年齢に関係なく、必ず胃カメラ検査を受けましょう。
当院では、患者様の苦痛に配慮した内視鏡検査を提供しています。検査を受けた患者様から「想像していたよりもずっと楽だった」とのお声を頂けるようにスタッフ一同、日々努力しております。
どのように内視鏡スコープを操作すれば、苦痛に配慮した内視鏡検査になるのかを熟知した専門医が検査を担当します。
少しでも気になる症状があれば、ぜひ一度、お気軽にご相談ください。

監修:鹿児島中央駅西口消化器内科・胃大腸内視鏡クリニック  院長 細川 泰三

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