慢性胃炎とは
慢性胃炎は、胃の粘膜に持続的な炎症が生じている状態を指します。かつては加齢や食生活の乱れが原因と考えられてきましたが、現在ではその原因の大部分(約80〜90%)がヘリコバクター・ピロリ菌の感染によるものであることが解明されています。
炎症が数十年単位で継続すると、胃の粘膜が次第に薄くなり、胃液を分泌する腺組織が消失する「萎縮(いしゅく)」という現象が起こります。この状態を萎縮性胃炎と呼び、胃がん発生の最も強力な母地(土壌)となります。
慢性胃炎 分類と原因
現代医学において、慢性胃炎は以下の3つの背景に分けて考えることが重要です。
① ピロリ菌感染による胃炎(現感染)
現在ピロリ菌が胃の中に生息し、活動性の炎症を起こしている状態です。粘膜は赤く腫れ、粘液が濁るなどの所見が見られます。
② ピロリ菌除菌後の胃炎(既感染)
除菌には成功したものの、それまでに生じた粘膜の「萎縮」や「腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)」が残っている状態です。炎症自体は治まっていますが、胃がんのリスクは依然として残るため、継続的な監視が必要です。
③ 非ピロリ菌性胃炎
ピロリ菌以外が原因で起こる胃炎です。
- 薬剤性胃炎: 痛み止めのNSAIDs(アスピリンやロキソニン等)の長期服用によるもの。
- 自己免疫性胃炎(A型胃炎): 自分の免疫が胃の細胞を攻撃してしまう稀な疾患で、ビタミンB12欠乏による貧血を伴うことがあります。
- 生活習慣性胃炎: 過度の飲酒、喫煙、塩分の摂りすぎによる刺激。
自覚症状と「機能性ディスペプシア」との違い
慢性胃炎の厄介な点は、「粘膜の炎症のひどさ」と「本人の自覚症状」が必ずしも一致しないことです。
- 無症状のケース: かなり萎縮が進み、胃がんのリスクが高いにもかかわらず、全く症状がない方が非常に多くいらっしゃいます。
- 症状があるケース: 胃もたれ、早期膨満感(すぐにお腹がいっぱいになる)、みぞおちの痛みなど。
もし胃カメラで明らかな異常(潰瘍やがん)がないのに症状が続く場合は、胃の動きや知覚過敏が原因の「機能性ディスペプシア(FD)」として治療を行うこともあります。
最新の内視鏡診断基準・技術
■最新の内視鏡診断基準
胃がんのリスクを客観的に評価するための基準があります。以下の所見を詳細に観察・数値化します。
- 萎縮(Atrophy): 粘膜がどれくらい薄くなっているか。
- 腸上皮化生(Intestinal Metaplasia): 胃の粘膜が腸の粘膜のように変化してしまっているか。
- びまん性発赤(Diffuse Redness): ピロリ菌特有の粘膜全体の赤み。
- 点状発赤(Spotty Redness): 胃の体部に点状に見える赤い斑点。
- 鳥肌粘膜(Nodularity): 若年層のピロリ菌感染に見られる、鳥肌のようなブツブツとした隆起。
これらのスコアが高いほど、将来の胃がんリスクが高いと判断され、より厳重な定期検査が必要となります。
■内視鏡技術による精密スクリーニング
慢性胃炎の胃は、粘膜が凹凸に富み、血管の走行が乱れているため、早期胃がんを見分けるのが非常に困難です。当院では以下の技術を駆使します。
- NBI(狭帯域光観察): 粘膜表面の微細な血管と構造を強調します。「茶色の領域」として現れる早期がんを、背景の胃炎から浮き彫りにします。
- 拡大内視鏡: がんが疑われる部位を80倍以上に拡大し、細胞レベルの血管変化を観察することで、組織採取(生検)の精度を高め、不要な出血リスクを抑えます。
慢性胃炎の治療と管理方針
慢性胃炎の治療のゴールは、「炎症を止めること」と「胃がんを早期発見すること」の2点に集約されます。
- ピロリ菌の除菌: 原因がピロリ菌であれば、除菌治療が最優先です。除菌により胃粘膜の炎症は消失し、萎縮の進行も止めることができます。
- 対症療法: 胃もたれや痛みがある場合は、胃酸分泌抑制薬や胃運動機能改善薬を処方し、症状の緩和を図ります。
- 除菌後の「生涯」定期検診: これが最も重要です。除菌に成功しても、一度変化してしまった「萎縮性胃炎」は完全には元に戻りません。除菌後数年〜十数年経ってから胃がんが発生するケースも多いため、当院ではリスクスコアに基づき、1年に1回の定期的な胃内視鏡検査(胃カメラ)の継続を強く推奨しています。





