大腸がんとは
大腸がんは、結腸・直腸の粘膜から発生する悪性腫瘍です。日本国内の統計において、部位別がん罹患数は第1位、死亡数でも第2位(女性では1位)となっており、現代の日本人にとって最も警戒すべき疾患の一つと言えます。
その発生プロセスには、主に以下の2つの経路が存在します。
- Adenoma-carcinoma sequence(腺腫-がん連鎖): 良性の腺腫(ポリープ)が遺伝子変異の蓄積により、数年かけて段階的にがん化するものです。大腸がんの多くがこの経路を辿るため、ポリープの段階で適切に切除を行うことが、劇的ながん予防効果をもたらします。
- de novo(デノボ)経路: ポリープを経由せず、正常な粘膜から直接がんが発生するものです。進行が比較的早いケースがあるため、微細な変化を捉える高精度な内視鏡診断が不可欠となります。
臨床症状と早期発見の重要性
大腸がんは「沈黙の病」と呼ばれ、早期段階では自覚症状がほとんどありません。以下のような症状が顕在化した際には、病状がある程度進行している可能性を考慮する必要があります。
- 排便習慣の変化: 持続する便秘、下痢、またはそれらの繰り返し(便通異常)。
- 便柱細小: 腫瘍によって腸管内が狭くなることによる、便の細小化。
- 血便・下血: 鮮血便(直腸やS状結腸がん)から、目に見えない微量な出血(右側結腸がん)まで様々です。
- 腹部膨満感・腹痛: 腫瘍による通過障害(狭窄)に伴う症状です。
- 貧血・体重減少: 慢性的な出血による鉄欠乏性貧血や、腫瘍による代謝の変化が原因となります。
特に、市町村の検診(便潜血反応検査)で陽性と判定された場合は、自覚症状の有無に関わらず、速やかに大腸内視鏡検査を実施することが医学的ガイドラインでも強く推奨されています。
当院における高度内視鏡診断システム
当院では、微細な病変を見逃さないために、最新のテクノロジーと熟練した技術を統合した検査体制を整えています。
高精度な観察技術(NBI・拡大内視鏡)
狭帯域光観察(NBI)を用い、粘膜表層の微細血管パターンを強調して観察いたします。これにより、通常の白色光では判別が困難な平坦型病変の発見や、がんの浸潤度(深さ)の非侵襲的な推定が可能となります。
AI(人工知能)診断支援システムの導入
内視鏡AI診断支援システムを併用することで、医師の肉眼に加えてAIがリアルタイムで病変候補を検出し、アラートを発信します。これにより、微小病変の見落とし(Miss rate)を極限まで低減させる「ダブルチェック体制」を実現しています。
■苦痛を最小限に抑えるための取り組み
- 鎮静剤・鎮痛剤の至適投与: 患者様の全身状態や不安感に応じた微調整を行い、苦痛をほとんど感じないリラックスした状態での検査を提供いたします。
- 軸保持短縮法: 腸管を無理に伸ばさず、手前に畳み込むように挿入する高度な技術により、腸管壁への負担を最小限に抑えます。
- 炭酸ガス(CO2)送気: 空気に比べ約200倍も吸収が速い炭酸ガスを使用することで、検査後の膨満感や腹痛を速やかに解消いたします。
低侵襲治療:日帰り大腸ポリープ切除術
当院では、検査中に発見された腺腫(将来がん化する可能性のあるポリープ)に対し、その場で切除を行う「クリーン・コロン」の概念を実践しています。
- コールドポリペクトミー: 高周波電流(熱)を用いずに切除する手法です。術後の後出血や穿孔のリスクが極めて低く、抗血栓薬を服用されている患者様にも適応しやすいのが特徴です。
- EMR(内視鏡的粘膜切除術): 粘膜下層に生理食塩水等を注入して病変を浮かせ、スネア(輪っか状の器具)で電気的に焼き切る手法です。平坦な病変に対しても確実な切除が可能です。
※浸潤が深いと推測される場合や、極めて巨大な病変については、連携する高度医療機関(基幹病院)でのESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)や外科手術へ迅速にご紹介する体制を構築しております。
大腸がん予防とリスク管理
大腸がんは、生活習慣の改善と適切なスクリーニングによって「予防」が可能な疾患です。
- 食習慣の最適化: 高脂肪食、赤身肉、加工肉の過剰摂取を控え、食物繊維を豊富に含む食事を推奨いたします。
- 身体活動: 適度な運動は、大腸がんの罹患リスクを有意に低下させることが報告されています。
- 定期的なスクリーニング: 40歳を超えましたら、症状の有無に関わらず一度は大腸内視鏡検査を受けることが望ましいです。





