胃潰瘍の病態とメカニズム
胃潰瘍とは、胃酸や消化酵素によって胃の粘膜が深く削れ、粘膜下層以下の組織まで損傷が及んだ状態を指します。
本来、胃の粘膜は「防御因子(粘液や血流)」によって自らを酸から守っていますが、何らかの原因で酸の攻撃力が上回るか、防御力が低下した際に潰瘍が発生します。現代医学では、このバランスを崩す最大の要因が「ピロリ菌」と「痛み止め(NSAIDs)」であることが明確になっています。
胃潰瘍の主な原因
胃潰瘍の原因は多岐にわたりますが、以下の3つが重要です。
① ヘリコバクター・ピロリ菌感染
日本の胃潰瘍患者の多くに見られます。菌が分泌する毒素が粘膜を直接傷つけるとともに、慢性的な炎症を引き起こして防御機能を著しく低下させます。
② NSAIDs(薬剤性潰瘍)
ロキソニンやアスピリンなどの痛み止め、心筋梗塞予防の抗血小板薬などは、胃粘膜の保護に欠かせない成分の合成を阻害します。ピロリ菌がいない「綺麗な胃」であっても、これらの薬剤常用によって深い潰瘍(NSAIDs潰瘍)が形成されることが多々あります。
③ ストレスと生活習慣
極度の精神的・身体的ストレスは胃粘膜の血流を悪化させ、防御力を低下させます。また、喫煙や過度の飲酒も潰瘍の治癒を遅らせ、再発のリスクを高めます。
自覚症状と合併症のリスク
代表的な症状は「みぞおち(上腹部)の痛み」です。特に食後に痛みが出やすい傾向にありますが、以下の合併症が生じた場合は緊急を要します。
- 出血(吐血・下血): 潰瘍が血管を侵食すると、コーヒー残渣のような物を吐いたり、タール便(真っ黒な便)が出たりします。急激な貧血を伴うこともあります。
- 穿孔(せんこう): 潰瘍が胃の壁を貫通した状態です。耐え難い激痛が生じ、急性腹膜炎として緊急手術が必要になる場合があります。
- 狭窄(きょうさく): 治癒によるひきつれで胃の出口が狭くなり、食べ物が通らなくなる状態です。
当院における内視鏡診断
胃潰瘍の診断には胃カメラが不可欠です。当院では以下の専門的な評価を行います。
病期診断
潰瘍の状態を「活動期」「治癒途上期」「瘢痕期」に細かく分類します。これにより、出血リスクの予測や薬物療法の期間を科学的に判断します。
胃がんとの鑑別(重要)
一見良性の胃潰瘍に見えても、実は「潰瘍形成型胃がん」である可能性があります。当院ではNBI(特殊光観察)を駆使し、疑わしい場合は生検(組織採取)を行い、悪性疾患の見落としを徹底的に防ぎます。
胃潰瘍の治療戦略
現代の胃潰瘍治療は、強力な胃酸分泌抑制薬の登場により、内科的治療が主役となっています。
- 薬物療法: 胃酸を抑える最新の「P-CAB」や「PPI」を主軸に、粘膜保護剤を併用します。
- 内視鏡的止血術: 検査中に出血を認めた場合、その場でクリップ止血などを行い、外科手術を回避します。
- 除菌治療: ピロリ菌陽性の場合は除菌を行うことで、将来の再発率を劇的に下げることが可能です。
日常生活のアドバイス
治療中は胃への刺激物(辛いもの、カフェイン、アルコール)を控え、消化の良いものを摂取してください。特に禁煙は血管を収縮させ、治癒を大幅に遅らせるため非常に重要です。
その症状、放置せずに当院までご相談ください
1. 内視鏡専門医による「見逃さない」高度な診断
「ただの胃もたれ」「いつもの食欲不振」だと思っていた症状の影に、重大な病気が隠れていることは少なくありません。当院では、数多くの症例を経験してきた内視鏡専門医が、最新のNBI(特殊光観察)や拡大内視鏡を駆使し検査いたします。
2. 「検査が怖い」を「受けてよかった」に変える工夫
内視鏡検査に「苦しい・痛い」というイメージをお持ちではありませんか?当院では、適切な鎮静剤(眠り薬)を使用し、ウトウトと眠っている間に検査を終えることが可能です。反射(オエッとなる嘔吐反射)が強い方や、過去に辛い思いをされた方も、リラックスして受診いただける体制を整えています。
このようなサインはありませんか?
- 市販の胃薬を飲んでも症状が繰り返す
- ダイエットしていないのに体重が減ってきた
- 便が黒っぽい、または血が混じる
- のどの違和感や胸のつかえが続いている
- お腹が張って、ガスや便が出にくい
これらの症状は、体が発している「重要なSOS」です。早期発見こそが、体への負担が少ない治療(内視鏡治療など)で完治を目指せる唯一の方法です。
「これくらいで受診してもいいのかな?」と迷う必要はありません。
皆様の安心と健康を守るため、まずは一度、専門医の診察をお受けください。
※当日の検査をご希望の方はお電話にてお問い合わせください
監修:鹿児島中央駅西口消化器内科・胃大腸内視鏡クリニック
院長 細川 泰三





