口臭とは
口臭は、その発生源によって大きく「生理的口臭」「口腔由来の口臭」「全身・内科的疾患由来の口臭」の3つに分類されます。
歯科医院で「歯や歯茎に異常がない」と言われたにもかかわらず口臭が改善しない場合、呼気(吐き出す息)に混じっている揮発性成分が、胃腸や肝臓、あるいは代謝異常に起因している可能性が高まります。これは、血液中に取り込まれた臭い成分が肺のガス交換を通じて吐き出される、あるいは消化管内のガスが逆流してくることによって起こります。
口臭の原因となる主な消化器・内科疾患
消化器専門外来において、口臭の原因として精査すべき主な疾患は以下の通りです。
① 逆流性食道炎(GERD)
胃酸や胃の内容物が食道に逆流する際、胃内ガスや未消化物の臭いが口まで上がってきます。特に「呑酸(どんさん):酸っぱいものが上がってくる感じ」を伴う場合、口臭を自覚しやすくなります。
② 胃不全麻痺・胃排出能の低下
糖尿病の合併症や加齢、ストレスなどにより胃の動きが悪くなると、食べたものが長時間胃の中に留まり(停滞)、異常発酵を起こします。この発酵臭が呼気に混じることがあります。
③ ピロリ菌感染と慢性胃炎
ピロリ菌が尿素を分解する際に生成する「アンモニア」の臭いが呼気に混じることが示唆されています。また、ピロリ菌による胃粘膜の萎縮は、間接的に口臭の原因となります。
④ 胃がん・食道がん
進行したがん組織が壊死(えし)を起こすと、特有の腐敗臭が発生します。これが呼気に混じることで、強烈な口臭として認識されることがあります。
⑤ 肝機能障害(肝不全・肝硬変)
肝臓の解毒機能が著しく低下すると、アンモニアなどの成分が肺から「カビ臭い」「ドブ臭い」と表現される特有の肝性口臭(アミン臭)として放出されます。
当院における精密診断アプローチ
「口臭」を主訴に受診された患者様に対し、当院では以下の検査を駆使して内科的要因を特定します。
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
食道、胃、十二指腸の粘膜を直接観察し、壊死を伴う腫瘍や逆流性食道炎、ピロリ菌感染の有無を評価します。当院では鎮静剤を使用した「苦しくない内視鏡検査」を行っております。
腹部超音波(エコー)検査
肝臓、胆嚢、膵臓の状態を非侵襲的に確認します。肝硬変の兆候や脂肪肝、胆石など、代謝や消化に関わる臓器の異常をスクリーニングします。
血液検査・尿素呼気試験
肝機能、血糖値、炎症反応などを数値で評価します。また、尿素呼気試験によりピロリ菌の有無を判定します。
治療とマネジメント
内科的な原因が特定された場合、その根本疾患を治療することで口臭は劇的に改善します。
- ピロリ菌除菌治療: 除菌に成功することでアンモニア臭が消失し、胃の消化機能が正常化します。
- 逆流性食道炎の治療: 強力な胃酸分泌抑制薬(P-CAB等)により、逆流そのものを抑えます。
- 漢方薬の活用: 胃の停滞感がある場合には、胃腸の動きを助ける漢方薬を処方し、異常発酵を防ぎます。
- 生活習慣の改善: 飲酒・喫煙の制限や食事指導を行い、臓器への負担を軽減します。





